有効求人倍率の上昇などによって、新たな価値創造や経済成長の大きな原動力として期待されている「スタートアップ」でも、人材を獲得しにくく難しい状況となっています。
スタートアップ企業の採用担当者様の中には、
・採用活動の質を上げる方法がわからない
・求める人材がなかなか確保できない
・効果的な採用手法が分からない
など、さまざまな悩みを抱えている方もいるでしょう。
本記事では、スタートアップ企業の採用について、採用活動を「成功させるコツ」や「手法」などを実際の事例も交えながら詳しくご説明します!
スタートアップにおける採用は、一般的な中小企業や大企業に比べて難しいとされています。その理由には以下の3つがあります。
・企業の知名度
・採用予算の制約
・即戦力人材の獲得競争
転職を考えている求職者は、待遇や職場環境、企業のブランドなどの観点から選択肢を絞ります。特に待遇やブランドの観点においてスタートアップは、メガベンチャーや大企業、外資系企業と比べると引けを取ってしまいます。
また、スタートアップ企業が認知度を上げても、スタートアップに興味を持つ人材のコミュニティ内でしか知られないことが多いです。転職を検討している人材、特にスキルを持つ人材が知っている企業は、スタートアップに限定されたコミュニティとは異なることに注意が必要です。
また、社員の育成にかかる時間や金銭的コストを抑えるために、即戦力となる人材を積極的に求めています。
しかし即戦力となる人材は、知名度や魅力的な待遇を提供する大手企業からもオファーがあるため、激しい競争下にあるといえます。
スタートアップ企業は、大手企業や中小企業に比べて、採用に割けるリソースやコストが限られています。
具体的には、事業の立ち上げや成長に資金を集中させるため、他の部門や活動に割り当てる予算が限られ、採用活動に充てる予算も制約されることがあります。
スタートアップ企業は事業が成長途上であるため、採用チームも限られた人員で運営されることが多く、インターンシップや大規模な説明会などの多岐にわたる採用活動を行うことことは難しいでしょう。
では、スタートアップ企業がどのような流れでどんなことに採用を進めていけばよいのか解説します。以下のステップに分けて解説します。
・採用戦略の立案
・母集団形成
・選考
・内定後
まずは採用戦略を立案しましょう。採用戦略をしっかりと立てることで、採用活動を成功させる基盤を築くことができます。
採用活動を人事部に任せきりにするのではなく、現場や経営陣を巻き込んだ専用チームを作りましょう。様々な立場の意見を取り入れることで、会社全体の総意や方向性を作ることができます。
採用戦略を立てるためには、まず現状を正確に把握することが重要です。組織が直面している課題や目標、必要なスキルセットを把握し、選考フローを可視化します。
具体的には以下のような点を分析します。
・面談から入社までのフロー
・フローごとの数値(進捗率や見送り率など)
・現在利用している採用チャネルとその特性
現状分析の結果を基に、必要なスキルや経験を持つ人材のターゲットを再確認します。本当に必要なスキルは何か、どのような経験をしてきた人が適しているのかを明確にし、採用戦略を立てます。
求職者とのコミュニケーションが最適かどうかを見直します。
具体的には以下のポイントを確認します。
・書類選考のスピード
・求職者のニーズに応じた情報提供
・面接時に自社の魅力のアピール
計画通りに人材を確保するために、適切な求人媒体を選定します。Web広告、求人誌、ホームページなどのメディアや求人プラットフォームを活用し、自社が求める人材が多い媒体を選びます。詳しくは後ほど解説します。
会社全体の人材採用における総意と方向性が決まったら、採用計画と目標を設定します。採用目標人数や選考フローを決定し、社内で共有します。また、期日を決めて効果検証を行い、現場も巻き込んで成果の評価と改善点を話し合いましょう。
スタートアップ企業の採用過程において、最も大きな課題となるのが母集団形成です。スタートアップ企業の採用過程において、最大の課題の一つが応募者数の確保です。ここで重要なのが採用広報の施策です。
採用広報には、自社のウェブサイトを充実させることや、採用専用ページの作成、SNSの活用などがあります。これらは低コストで実施可能です。応募者との接触点を増やすことで、応募者が入社を決定する際に良い影響を与えることができます。
さらに、採用広報を通じて求める人材像や社風を明確に伝えることで、入社後のミスマッチを防ぐことにも繋がります。
候補者が応募した際には、迅速に対応することが重要です。転職意欲が高い候補者は、多くの企業を選択肢に入れています。返信が遅れることで、自社に対する応募意欲が低下する可能性があります。
面接日時が確定した後は、積極的に情報提供を行いましょう。例えば、日時確定メールに「面接までにぜひご参照ください」といった形で各採用広報媒体のコンテンツリンクを挿入すると良いでしょう。
面接は双方が相手を知るための場です。候補者に自社のことを理解してもらうために、見極めと訴求の段取りを組んで実施します。
さらに、来社時の体験によって候補者の意欲が下がらないようにしましょう。人事・採用担当だけでなく、従業員全体が候補者に好印象を与えるよう、日頃から努力することが重要です。
面接後は、各担当者のフィードバックに一貫性を持たせるため、フィードバックルールを設計しておきましょう。また、現状を正確に把握するために、面接後のヒアリングを行うようにします。
具体的には、
・他社の状況
・自社に対する印象
・選考企業の志望順位とその理由
などについてヒアリングを行いましょう。
内定を出した後は、応募者に自社を選んでもらうための訴求が必要です。応募者が入社後の業務を具体的にイメージできるようにしましょう。
また、経営方針やビジョンに共感してもらうことも入社の決め手になります。入社の動機を明確にすることで、せっかく内定を出した人が他社に流れることを防げます。
ここでは、スタートアップ企業が採用のターゲットとすべき人材について解説します。以下の三つの特徴を持つ人材が挙げられます。
・成長意欲の高い人材
・自己決定能力がある人材
・ミッション・ビジョンへの共感がある人材
まず、成長意欲の高い人材です。スタートアップは急成長を目指す企業であり、その成長を支えるためには社員一人ひとりの成長が不可欠です。
自分の足りない部分を自ら考え補い、常に向上を目指す姿勢を持つ人は、スタートアップのダイナミックな環境に適しています。
自分で意思決定できる能力も重要です。スタートアップでは、新しいビジネスモデルを展開する中で前例のない事態に直面することが多く、組織体制も未整備な場合が少なくありません。
そのため、上からの指示を待つのではなく、自分で考え、迅速に行動できる人が求められます。自ら判断し、スピード感を持って動くことで、ライバルに先んじることができます。
最後に、ミッション・ビジョンへ共感できる人材も欠かせません。スタートアップは前例のない事業を進めるため、事業の仮説検証を繰り返し、トライアンドエラーを頻繁に行います。
環境変化も多く、決して楽な職場環境ではありません。それでも、企業のビジョンに共感し、自分事として捉えることで、困難な状況でも粘り強く取り組むことができるのです。
スタートアップ企業が限られた採用コストで即戦力となる人材を採用するためには、企業側から積極的にアプローチする「攻め」の採用手法を取り入れることが有効です。
主に以下の5つの手法が挙げられます。
・ダイレクトリクルーティング
・ソーシャルリクルーティング
・オウンドメディアリクルーティング
・リファラル採用
・インターン採用
ダイレクトリクルーティングは、企業の採用担当者が候補者を発掘して、直接アプローチする採用手法です。採用したいターゲットを絞って効率よく活動できるため、リソースが限られやすいスタートアップ企業に適しています。
また、自社を知らない層や転職潜在層にもアプローチできるため、知名度が低い企業でも応募数を確保しやすいです。
ソーシャルリクルーティングは、FacebookやTwitterなどのSNSを活用する新しい採用手法です。
従来の採用手法では、求職者が応募し、企業が採用選考を行う順序が一般的でした。しかし、ソーシャルリクルーティングでは、SNSを通じて人と人をつなげ、まず信頼関係を構築してから採用選考に進むという特徴があります。
この手法を活用することで、自社の情報をより多くの人に共有できるため、効率的な採用活動が可能となります。
オウンドメディアリクルーティングとは、オウンドメディアを活用して自社の魅力を発信し、付加価値の高い人材に直接アプローチする採用手法です。
オウンドメディアを開設することで、検索して訪れるユーザーや求職者に対して効果的にアピールできます。また、オウンドメディアはその会社や業種、職種に興味を持っている人に見られるため、転職意欲が高くないが会社とのマッチ度が高い人材、つまり転職潜在層との接点を持ちやすいという特徴があります。
さらに、オウンドメディアを利用した採用手法では、自社にデータが蓄積され、施策内容が資産として残り続けるというメリットがあります。
リファラル採用は、自社の社員から親族や知人、友人など候補者となる人材を紹介してもらう手法です。社員の紹介であれば、企業との信頼関係を築きやすく、早期離職を防ぎやすいというメリットがあります。
また社員が直接候補者を紹介するため、メディアやエージェントの仲介料が発生しません。転職エージェントを利用すると平均で100万円のコストがかかると言われていますが、この方法ではそのコストを削減しながら優秀な人材を獲得できます。
新卒を採用対象に含める場合は、長期インターンを開催することも効果的です。
インターンシップに参加する学生は、就職に対して積極的で意欲の高い傾向があります。彼らと交流し、社内の雰囲気を体感してもらうことで、採用活動時に熱意をもって応募する学生が増える可能性が高まります。特に優秀な学生に積極的にアプローチすることで、他社への流出を防ぎ、自社への入社につなげることも可能です。
また、実際の業務や社内の雰囲気を体験しているため、入社後のギャップが小さく、内定辞退率や早期離職率を低く抑えることができます。
スタートアップ企業は、少人数のチームで採用活動を行わなければなりません。求人への応募者集めから書類選考、面接までの過程を効率的に進めるために採用担当者に求められるスキルについて解説します。
スタートアップは、給与・労働時間・福利厚生などの待遇面で他社と差別化しにくい傾向があります。求人をサイトに掲載して待つだけでは、希望する人材を早期に確保することは難しいでしょう。
採用担当者には、先ほど解説した採用計画を立て、その計画をどのような手段で達成するかを考える戦略的な知識が必要です。
コミュニケーション能力といっても様々ありますが、ここでは会社のビジョンを正しく伝えるスキルのことを指しています。スタートアップでは、採用の失敗が事業運営に大きな影響を与える可能性があります。
採用担当者には、求人の文面や面接での会話を通じて、自社の経営ビジョンや魅力を正しく求職者に伝えるスキルが求められます。これにより、会社の方針に沿って長く活躍してくれる人材を選定することが可能になります。
スタートアップは、採用にかけられるリソースが限られているため、応募者のスキルや性格適性を的確に見極める能力が重要です。採用担当者は、履歴書や職務経歴書を鵜呑みにするのではなく、選考途中でのやり取りや面接での会話など、多角的な観点から応募者を評価するスキルが必要です。
また、採用担当者の考える理想の人物像と実際に現場で必要とされる人物像が一致するようにすることも重要です。
最後に、スタートアップ企業で採用に成功した事例を厳選して2社ご紹介します。
キャディ株式会社はモノづくり産業のポテンシャルを解放する」をミッションに掲げ、コストダウンや調達工数の削減など、製造業界の課題に大きな変革をもたらしてきました。
従業員数約80名だった2021年2月から約9ヶ月で160名の採用を実現しています。主な取り組み内容は以下の3つです。
採用候補者のフィードバックを基に情報をリサーチし、サイトの改善に取り組んでいます。『兆単位プラットフォームへの10の課題』を作成し、具体的な課題や業務内容を提示しています。
資金調達成功時のプレスリリースに採用リンクを掲載しています。
その結果、自社サイト経由のアクセスが2.5~3倍に増加したそうです。
資金調達後に、投資家やメンバーが登壇するビジョンや戦略に関するイベントを開催しています。
参照:ミッション・ビジョン・カルチャーにフィットした人材の採用が未来を変える。従業員数250名のキャディが四半期採用目標160名を達成するための採用戦略。
株式会社スタディストは、クラウド型マニュアル作成・共有ツール「Teachme Biz」を提供する企業で、採用からオンボーディング体制までを見直し、個人の意欲(Will)と会社の必要性(Must)を継続的にすり合わせる仕組みを構築しました。これにより、「人が定着する組織」を実現しています。
主な取り組み内容は以下の4つです。
「会社が従業員に提供できる価値」(EVP)を整理し、発信しています。また、採用サイトや開発ブログでのEVPの発信を通じて、求職者とのミスマッチを防止に取り組んでいる。
選考フローを見直し、一次選考後に5〜10分の「マッチングインタビュー」を行っています。候補者の転職軸トップ3を確認し、その希望に会社がどれだけ応えられるかを真摯に説明しています。
入社後の「ポートフォリオ研修」で新メンバーが自身の意欲・スキル・責任を言語化し、自己開示を促進できるようにしています。
継続的に1on1ミーティングを行うことで「やりたいこと・できること・やるべきこと」の重なりを探求しています。
マネージャーの任用プロセスを言語化し、GitHubで議論の過程の可視化に取り組んでいます。これにより、内定承諾率は70%を超え、開発部は40名に増加したそうです。
参照:個人のWillと会社のMustを合わせる!入社後の納得度を高める採用プロセスの作り方
本記事では、スタートアップ企業の採用について、採用活動を「成功させるコツ」や「手法」などを実際の事例も交えながら解説しました。
適切な採用戦略を立案することで、自社の課題解決への糸口も見えてくるでしょう。本記事が採用活動の成功の一助となれば幸いです。