優秀な人材を確保するための競争が激化している中、退職者を再雇用することにより、自社にとって最適の即戦力を確保できるカムバック制度(アルムナイ制度)が注目されています。
一方で、
・カムバック制度についてよく分からない
・導入の手順を知りたい
・自社でも導入できるか事例を通して判断したい
など、さまざまな悩みを抱えている企業様も多いのではないでしょうか。
本記事では、実際の事例とともにカムバック制度の「メリット」「デメリット」「導入の手順」「ポイント」など、幅広くご紹介します。
「カムバック制度」とは、自社の退職者を再雇用する制度です。「出戻り制度」や「アルムナイ制度」などとも言われています。
「アルムナイ」(Alumni) とは、「卒業生」や「同級生」を意味する言葉で、企業では「退職者」を指す言葉として使われています(定年退職者は除く)。
似た言葉に「ジョブ・リターン」があります。再雇用制度という点では同様ですが、アルムナイ制度は、やむを得ない理由での退職に限らず、転職や起業などの理由で退職した元従業員も対象としています。
カムバック制度が注目される要因として、以下の2つが挙げられます。
・働き方の多様化
・優秀な人材確保の競争激化
終身雇用の終焉やライフワークバランスを重視する働き方へのシフトなど、社会的な変化により、転職が一般的になり、企業が卒業生(アルムナイ)を送り出す機会が増えました。
一方で、少子高齢化による労働力不足や採用手法の多様化に伴い、採用活動は年々競争が激化しています。総務省統計局によると、今後も人口減少は加速していく見込みであり、それに伴って生産年齢人口も減少していくでしょう。特に、自社が求めるスキルを持つ優秀な人材の確保はますます困難となります。
出典:「人口推計- 2024年(令和6年)7月報-」総務省統計局
こうした状況の中で、カムバック制度は、既に人柄や一定のスキルが把握できているため、採用のミスマッチが起こりにくく、注目されるようになっています。
ここでは、カムバック制度を導入するメリットをご紹介します。以下の5つです。
・即戦力の確保
・採用費や教育費の削減
・人材ネットワークの構築と情報交換
・ミスマッチの防止
・企業のイメージアップ
それぞれについて詳しく解説します。
アルムナイは自社の文化やノウハウを既に理解しているため、基本的な教育が不要で、即戦力として再雇用が可能です。さらに、カムバック採用は必要な時期に最適な人材を迅速に採用でき、欠員補充や事業拡大時の人員増強にも対応できます。
アルムナイは自社が求めるスキルや役割を既に理解しているため、研修やOJTなどの教育研修にかかる費用を大幅に削減できます。また、求人媒体や人材紹介会社を介さず直接採用できるため、採用コストも削減できます。
カムバック制度は、再雇用以外にも有益な人材ネットワークの構築や情報交換の場としても機能します。退職者との関係を維持することで、リファラル採用やビジネスパートナーとしてのネットワーク拡大が期待できます。また、他社での経験を活かした第三者目線の企業評価やアドバイスを得ることも可能です。
カムバック採用のメリットの1つとして、離職率の低下も挙げられます。アルムナイは、他社での経験を踏まえたうえで元の会社に戻ってくるため、会社への愛着や忠誠心が高まりやすいです。
また、一度退職を経験しているため、再び離職を考えることが少なく、モチベーションを維持しながら働くことができます。
■採用ミスマッチについて詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
働き方改革の進展に伴い、ワークライフバランスの実現が企業に求められています。カムバック制度を導入することで、働き方改革に対する前向きなイメージを、社外に対してアピールすることができます。
企業のイメージアップが進むことで、優秀な人材の確保や業績向上、さらには企業の成長へとつながることが期待されます。
ここでは、カムバック制度を導入するメリットをご紹介します。以下の3つです。
・新たな制度構築が必要
・情報漏洩のリスク
・既存社員の反発や混乱に対応が必要
それぞれについて詳しく説明します。
カムバック採用の制度が確立されている企業はまだ少なく、導入していない場合は新たに制度を構築する必要があります。退職前の役職や既存社員との待遇バランスを考慮しつつ、再雇用時の待遇や判断基準を明確に定めることが大切です。
一度退職したアルムナイは、元社員ではありますが、現在は社外の人間です。そのため、カムバック制度では再雇用に向けた情報発信が重要である一方、社外秘の情報は徹底して管理し、情報漏洩が起きないように注意する必要があります。
復職者の待遇や役職によっては、既存社員から反発や混乱が生じる可能性があります。そのため、アルムナイの受け入れ体制を整え、既存社員との面談や再雇用に関する合意形成を行うことが重要です。効果的な制度活用には、アルムナイと既存社員がコミュニケーションを取る機会を設けることが大切です。
メリット・デメリットについて抑えていただけましたでしょうか。ここでは、カムバック制度を導入する際に重要となる6つのポイントを順序立ててご紹介します。
・①再雇用の対象範囲・対象者を決める
・②再雇用の労働条件を定める
・③カムバック採用の選考の流れを策定する
・④就業規則に記載する
・⑤従業員に周知する
・⑥退職者とコミュニケーションが取れる仕組みを構築する
それぞれについて詳しく解説します。
カムバック制度を効果的に運用するためには、一定の条件を定めて、再雇用の対象者を絞り込むことが必要です。
対象者を決める基準として、以下の項目が挙げられます。
・離職事由
・年数要件
・離職時の雇用形態
・退職後の経過年数
・年齢制限
カムバック採用は、自動的に内定が確定するものではありません。元社員を再雇用する可能性がある制度に過ぎないため、以前と同じ職位や待遇で再雇用できるかどうかは、企業や応募者の状況次第です。そのため、カムバック採用時の労働条件について、事前に明確な基準を設定しておくことが重要です。
通常の採用とは異なり、カムバック採用では応募者が元社員であるため、選考プロセスも異なることがあります。適性検査を省略したり、面接回数を減らしたりするなど、不要なプロセスは簡略化することが可能です。
参照:「カムバック制度」九州電力
これは、九州電力のカムバック制度利用者の採用の流れです。面談実施後に派遣社員として雇用し、その後面談を踏まえて社員として採用という形をとっています。
カムバック採用制度を新たに導入する場合、就業規則にその内容を明記する必要があります。規則変更時には、「就業規則変更届」「意見書」「変更後の就業規則」を労働基準監督署に提出します。
以下に、厚生労働省が示す規則の作成例を記載します。ぜひ参考にしてください。
株式会社〇〇再雇用制度規則
第1条 目的
この規則は、株式会社〇〇就業規則○条に基づく再雇用制度について定める。
第2条 適用範囲
この規定は、株式会社〇〇及び次の関連企業を退職した者に適用する。
株式会社〇〇電算、株式会社〇〇物流、有限会社〇〇企画
第3条 資格要件
次の各号のいずれにも該当する者であること
1 入社後1年以上在職したこと。
2 次のいずれかの理由により退職した者であること。
(1) 妊娠、出産
(2) 育児
(3) 介護
(4) 配偶者の転勤
(5) 自己啓発(就学、資格取得等)
(6) 病気療養
(7) その他会社が認めた理由
3 退職時又は退職後に、再雇用を希望する旨を申し出た者
第4条 手続き
1 退職時又は退職後に、退職理由及び再雇用を希望する旨を書面により人事担当部署に申し出ること。
2 会社は申出者のうち第3条の資格要件を満たす者を「再雇用希望者登録名簿」に記録し、登録証を交付する。
3 登録証を交付された者は、就労が可能となった場合、人事担当部署に採用希望時期を申し出ること。
第5条 採用
1 中途採用を行う場合は、再雇用制度登録者に対して優先的に募集を行うこととする。
2 再雇用制度登録者から応募があった場合は、本人の経験、能力等を勘案し、優先的に採用するよう努める。
第6条 再雇用時の処遇・賃金
再雇用時の処遇は、退職前の勤続年数、資格等級等及び退職から再雇用時までの就労経験、能力開発の実績等を評価して決定することとし、原則として退職時の勤務地、社員区分、職種、資格等級を維持するよう努める。ただし、本人の希望、事業所の業務・人員の状況等を踏まえ決定する。
第7条 再雇用後の配置・昇進・昇給等
再雇用後の配置・昇進・昇給等については、退職前の勤務実績及び退職から再雇用までの就業経験、能力開発の実績を踏まえた取り扱いを検討し、同一の社員区分・職種、同程度の経験・能力の社員と異なる取り扱いは行わない。
第8条 再雇用者への教育訓練
会社は、再雇用者の退職後の期間、経験を踏まえ、個別に必要な教育訓練を実施するよう努める。
附則
この規則は、平成〇年〇月〇日から適用する。
参照:「参考資料(再雇用制度規定例)」厚生労働省
カムバック制度を効果的に運用するために、従業員への周知を行います。変更した就業規則は、労働基準法第106条に基づき、従業員に周知しなければなりません。具体的には以下の方法で周知しましょう。
・各従業員に配布する
・従業員が必要なときに確認できる場所に提示する
・従業員がモニター画面で常時確認できるようにする
退職後に会社の取扱商品やサービス、社内制度が大きく変わっている可能性があります。そのため、再雇用時にはこうした変化によるミスマッチを防ぐことが重要です。退職時と現在の会社の状況がどのように変わったかを、再雇用希望者に事前に説明する場を設けましょう。
実際に、アルムナイネットワークサービスを活用している会社の事例を紹介します。
引用元:https://global.toyota/jp/
トヨタ自動車株式会社は、2005年8月1日より、事技専門職以上の社員を対象とした『プロキャリア・カムバック制度』を導入しました。この制度は、配偶者の転勤や介護などの理由で退職した事技専門職以上の社員に、再雇用の機会を提供し、原則として元の職場に復帰できる制度です。
トヨタは、2002年に発足した『ダイバーシティ・プロジェクト』の一環として、多様な人材が自己実現できる環境づくりを進めてきました。このプロジェクトでは、「仕事と育児・介護の両立策」や「女性のキャリア支援策」、「風土・意識改革」などの取り組みが行われており、今回の『プロキャリア・カムバック制度』もその一環です。
具体的な制度内容は以下の通りです。
参照 :「『プロキャリア・カムバック制度』導入について」トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト
引用元:https://www.fujitsu.com/jp/group/fjj/
富士通グループでは、育児や家族介護、配偶者の転勤、学業、キャリアアップを理由に退職した元社員を対象に、再び活躍できる場を提供する「カムバック制度」を導入しています。この制度は、社員の多様な働き方を実現し、多様な知識や経験を通じてイノベーションを創出することを目指しています。
具体的な制度内容は以下の通りです。
参照:カムバック制度 – 富士通Japan株式会社 リクルートサイト
引用元:https://www.ngk.co.jp/
日本ガイシ株式会社では、転職や留学、配偶者の転勤などのライフプランにより日本ガイシを退職された方を対象に、カムバック制度を導入しています。
具体的な制度内容は以下の通りです。
参照:「カムバック採用情報」日本ガイシ株式会社
いかがでしたでしょうか。本記事では、実際の事例とともにアルムナイ制度のメリットやデメリット、導入のポイントなど、幅広くご紹介してきました。
アルムナイ・カムバック制度を活用することにより、企業は自社にとって即戦力となる人材を素早く確保できます。現在の採用活動を見直す際に、ぜひ今回紹介した事例も参考にしてみてください!