企業の人材戦略を考えるうえで、人事評価制度の構築は不可欠です。人事評価制度は多くの企業で活用されています。しかしながら、
●そもそも人事評価制度はなぜ必要なの?
●人事評価制度の作り方は?
●作る際のポイントについて知りたい
●成功事例など参考にしたい
など様々な疑問や悩みを持っている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?そこで、本記事では、制度の種類や作り方、評価項目など人事評価制度を徹底的に解説します。
「人事評価」とは、社員の業務内容や業績を一定期間内で査定し、評価を行うことを指します。
「人事評価」と同じ意味を持つ言葉として「人事考課」があります。両者は基本的に同じ意味を持ちますが、厳密に言うと「人事評価」の方が「人事考課」よりも広範な意味を持っています。
「人事評価」は、業務内容や業績を単純に評価することを意味しますが、「人事考課」は賃金や昇進などの人事処遇を目的とした評価を行うことを意味します。
人事評価制度が必要な理由は主に5つあります。
・適切な人事配置が可能になる
・適切な処遇が可能になる
・社員のモチベーション向上に繋がる
・人材育成に繋がる
・企業成長に繋がる
それぞれについて詳しく解説します。
人にはそれぞれ異なる特性があるため、同じ業務でも人によって得意なこと・苦手なことが異なります。したがって、会社全体のパフォーマンスを向上させるためには、各自が能力を最大限に発揮できる役割を割り当てることが効果的です。
近年では事業環境の急激な変化と深刻な人手不足が問題となっています。このような急速な変化に対応するためには、各社員がその力を十分に発揮することが求められ、適材適所の配置が重要です。
人事評価を行う際には、目標を可視化することが重要です。目標を明確にすることで、会社が社員に期待する姿を伝えられ、社員も自分がどの方向を目指せばよいかを理解しやすくなります。その結果、目標に向かって積極的に行動することができます。
逆に、目標や評価基準が明確でない場合、社員は自分の目標を設定しにくくなり、モチベーションが低下する可能性があります。また、業績が適切に評価されない場合も、同様のリスクが発生します。
人事評価のデータを活用することで、各社員の得意分野や苦手分野を把握できます。これに基づいて、部下の教育を効率的かつ効果的に進めることが可能となります。
社員のモチベーション向上は、最終的に企業成長に繋がります。企業としてもより良い人材を育成し、持続的な企業成長を達成することが可能となります。
人事評価制度を導入するメリット・デメリットについて詳しく解説します。
人事評価制度のメリットは主に2つあります。
・企業理念を浸透させる効果がある
・モチベーションが向上する
それぞれについて詳しく解説します。
人事評価制度は企業理念を浸透させる効果があります。
企業理念や経営方針、経営課題に基づいて作成された人事評価制度は、会社が目指す方向性や従業員に期待する具体的な行動を示す指針となります。
各社員の能力や適性に応じて適切な業務や責任を割り当てることで、能力を最大限に発揮しやすくなります。そして、その成果が適正に評価されることを実感することで、モチベーションが向上します。
このように社員が満足度の高い環境で働くことで、生産性が向上し、結果的に会社の目標達成に貢献します。
人事評価制度のデメリットは主に2つあります。
・画一的な人材が多くなる
・従業員が不満を抱く原因になる
それぞれについて詳しく解説します。
人事評価制度によって一律の評価を行うことで、特定の枠に適合する人材を育成しやすくなる可能性があります。したがって、評価基準に含まれていない分野で優れた能力を持つ人材は、その才能が活用・評価されにくい傾向にあります。
評価結果が社員の不満を引き起こすこともあります。したがって、評価制度を運用する際には、定期的に見直しを行い、公平・透明で納得のいく評価が行われるよう努める必要があります。
人事評価には「目標管理制度(MBO)」「コンピテンシー評価」「360度評価」以上3つの種類があります。
目標管理制度(MBO)は、個人またはチームごとに目標を設定し、その達成度合いに基づいて評価を行う制度です。
ピーター・ドラッカー氏は自著で、「目標と自己統制による管理」を提唱し、社員一人ひとりが自己主導で行動することの重要性を説き、これがMBO制度として組織マネジメントの一環として普及しました。
コンピテンシー評価は、優れた業績を達成する人材が共通して示す行動特性(コンピテンシー)を基準にして行う人事評価のことです。
この評価方法では、「業務を効率的に構築できる能力」「傾聴能力」「親密なコミュニケーション能力」など評価項目が具体的な行動特性が評価の基準となります。これにより、評価基準が明確になり、社員の能力や適性を客観的で公正に評価することが容易になります。また、社員が目標に向けて積極的に取り組みやすいという特性があります。
360度評価(多面評価)は、対象者の人物像を上司、同僚、部下など異なる関係性を持つ複数の評価者によって多角的に評価する手法です。
この方法により、さまざまな視点から対象者の特性を把握でき、評価の公平性や客観性を確保することも期待されます。
人事評価制度の評価項目は以下3つあります。
・業績評価
・能力評価
・情意評価
それぞれについて詳しく解説します。
業績評価は、従業員が評価期間中に達成した業績や成果に対する客観的な評価です。具体的には、その業績や成果の達成度合いを数値化し、評価します。
能力評価は、社員の能力やスキルに対する評価です。企業は職能要件定義書などの規定に基づいて評価を行います。
情意評価は、社員の勤務態度や仕事への姿勢、意欲に対する評価です。具体的には、担当業務に対する意欲や責任感、組織協力の姿勢などが評価されます。
人事評価制度を作成する際には以下6つのステップがあります。
まずは自社の現状を正確に把握することが重要です。現在直面している課題や自社の企業理念を把握することで、自社に適した最良の人事評価制度を構築することができます。
次に人事評価の目的を明確にします。社員にも理解してもらうためには、人事評価制度が企業が達成したい目標や意図に沿っていることが重要です。経営陣の理念や価値観に基づいて、具体的な目標を設定し、「経営陣が評価する理想的な人材」を明確にしましょう。社員も自分の目指す方向を具体的に把握しやすくなります。
評価目的を設定したら、次に評価基準を決めます。
社員に求める役割や期待する行動など、求める人材の基準を細かく設定していきます。
社員が納得できる内容はもちろん重要ですが、基準を簡潔にし、誰にでも理解しやすい内容にしましょう。
評価項目を作成します。人事評価の目的を達成するために、「能力評価」「業績評価」「情意評価」などを参考にして項目を設定するとよいでしょう。
また、役職や職種に応じて内容を適切に調整することが重要です。各社員の業務内容や責任、役割に応じた公平な評価が可能になります。
評価基準が決まったら、次に評価方法を決定します。評価方法については、各企業が独自に定めます。代表的な方法としては、目標管理制度、コンピテンシー評価、および360度評価が挙げられます。
さらに、評価結果を処遇に反映させる際のルールも決定します。公平で従業員が納得する評価制度を確立するために、慎重に検討して設定しましょう。
人事評価制度が完成したら、全従業員に向けて周知しましょう。従業員から質問などを受けつけて、できるだけ不満が残らないようにした状態で運用を開始します。
人事評価制度が整ったら、全社員に対して周知しましょう。メールや社内掲示、ミーティングでの発表など、様々な場で情報を広めましょう。さらに、人事評価制度に関するマニュアルを作成し、必要に応じて確認できるようにしておきましょう。
また、人事評価が始まるまでには、通常1か月程度の期間を取ることが望ましいです。周知の過程で社員からの質問にも応じ、評価プロセスを円滑に進めるための準備期間として活用しましょう。
人事評価制度を作成する際のポイントは主に以下3つです。
・実現可能な評価制度を設定する
・高い公平性と透明性を確保する
・定期的に見直しをする
それぞれについて詳しく解説します。
人事評価制度は実現可能な範囲に設定しましょう。失敗例としてよくあるのが、壮大な制度を設計したはいいものの、現実的には運用が難しくなってしまうケースです。
運用フローを設計する前に、実際の現場社員の意見やフィードバックを積極的に取り入れましょう。現場の声を反映させることで、実際のニーズや課題を把握しやすくなります。
また、実際にその運用がどのように進行するかを具体的にシミュレーションし現実的に運用可能かどうか検討すると良いでしょう。
人事評価制度を設計する際には、公平性と透明性を高くすることが重要です。
評価基準や処遇は、全ての社員にとって公平である必要があります。公平性が欠如すると、不満や不平等感が生じ、信頼関係やモチベーションの低下に繋がる可能性があります。
さらに、評価基準は明確である必要があります。自身の評価を正確に把握し、適切な改善や成長に向けた取り組みが可能になります。
公平性と透明性を高めた人事評価制度を構築することは、組織の健全な運営と従業員の満足度を保つために不可欠です。社員が自身の評価に納得し、目標に向かって働く意欲を持ち続けるためには、このような制度の運用が欠かせません。
制度の運用開始後も、定期的な評価と改善を行いながら柔軟に対応します。変化する組織環境や社員のフィードバックを基に、制度の修正や調整を行うことで、持続可能な評価制度を確立します。
人事評価制度の成功事例について、4つご紹介します。適切な人事評価制度の導入が企業成長の重要なカギとなっていることがわかります。
引用元)「株式会社ディー・エヌ・エー」
DeNAでは、個々の成長を助けるために評価制度を活用し、成果と貢献を評価しています。業績に応じてダイナミックな報酬を提供し、社員の成長と強みの形成をサポートしています。評価は3つの職種と7つのグレードに分けられ、発揮能力と成果の2軸に基づいて行われることで、人材育成を促進しています。この評価制度は正社員と一部のグループ会社正社員が対象となっています。評価の結果は、面談の場でマネージャーから本人にフィードバックされる仕組みを導入しています。
また、有期雇用社員に対しても、成果と基本的な仕事の姿勢を重視した評価が行われ、キャリアアップの機会が提供されています。
出典:)「従業員と共に|DeNA」
引用元)「株式会社メルカリ」
2021年2月、メルカリグループは人事評価制度が大幅にアップデートされています。これまでの人事評価制度では、メンバーの能力や成果にランク付けを行わないシステム「ノーレイティング」でした。新たに「絶対評価」を導入することで、設定された目標をどの程度達成できたかを評価しています。成果・行動の2本軸で評価することで、評価を明確化し、個々の成長を促進することに成功しています。
出典:)「メンバーの活躍を“大胆に”報いる──大幅アップデートされたメルカリ人事評価制度の内容と意図|mercon」
引用元)「株式会社kubell」
近年、急速に事業・社員が拡大しているkubellは2017年からOKRを導入しました。
業績評価にOKRを参考にした数値を入れるだけでなく、「OKRを通してどれだけチャレンジしたか」に対する評価も入れています。さらに、OKRは四半期に1回として、サイクルを短くすることで目標と業務内容の乖離を減らすことに成功しています。
出典:)「【OKR最前線vol.2】ChatWork流 『完璧を求めない』『カッコつけない』理想の会社に近づけるためのOKR運用|組織づくりベース」
引用元)「ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社」
ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズは「働きがいのある会社ランキング」で5年連続ベストカンパニーを受賞しています。コンピテンシー評価を導入しており、3か月に1回の頻度で社員の評価が行われています。その際、上司からのフィードバックがあり、社員の目指す方向が明確になります。
公式Youtubeで人事評価制度について詳しく解説されているのでぜひ参考にしてください。
出典:)「採用情報|ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ」
人事評価制度を設計する際には、書籍を活用することが効果的です。
おすすめの1冊は、「小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方(あさ出版 )」です。中小企業で評価の高い「ビジョン実現型人事評価制度」について分かりやすく解説されています。人事評価制度作りと方法について3ステップで解説されており、段階ごとに読み進めていくことができます。
いかがでしたでしょうか。今回は、人事評価制度の概要、種類から作成手順まで解説しました。評価基準や評価方法を明確にすることは、自社に適した人事評価制度を作成するための重要なカギとなります。以上のポイントを踏まえて、従業員のモチベーションや組織全体の成果に寄与する評価制度を実現しましょう。