少子高齢化により日本の生産年齢人口が縮小していくことが予測される現代において、外国人労働者の力は必要不可欠になっています。そこで、外国人を積極的に採用したいと考える企業は少なくないでしょう。
しかし、
・採用までの手続きが分からない
・外国人を採用するメリット・デメリットが分からない
・実際に採用して成功している事例が知りたい
など、不安や悩みを抱えるご担当者様も多くいらっしゃると思います。
そこで本記事では、外国人労働者の「採用ステップとかかるコスト」「メリット・デメリット」「注意点」などを実際の事例も交えながら解説します。
まずは日本での外国人人材の雇用状況を、厚生労働省が公表している「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)」をもとに見ていきましょう。
まずは、外国人労働者数の推移と増加率について見ていきましょう。
2023年時点での外国人労働者数は約204万人と、前年と比べて約23万人増加しており、平成19年以降の過去最高を更新しています。増加率を見ると対前年増加率は 12.4 %と前年の 5.5 %から 6.9 ポイント上昇していることが分かります。
続いて、外国人労働者数を国籍別に見ていきます。
ベトナムからの労働者が最も多く、約52万人(外国人労働者数全体の 25.3%)であり、次いで中国の約40万人(19.4%)、フィリピンの約23万人(11.1%)の順となっています。
次に、産業別の外国人労働者の割合について見ていきましょう。
「製造業」が 27.0%、「サービス業」が 15.7%、「卸売業、小売業」が 12.9%となっており、製造業での雇用される割合が高いことが分かります。
次に事業所規模別の外国人労働者の割合を見ていきましょう。
「30人未満」規模の事業所で就労する外国人が、全体の36.1%と最も多く、中小企業を中心に雇用が進んでいることが分かります。
参照:「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)」厚生労働省
日本の外国人労働者が増加している理由には、以下の2点があります。
日本の少子高齢化による深刻な人手不足が、外国人労働者増加の主な理由です。多くの企業が外国人労働者を受け入れる理由の過半数は人手不足に起因しています。
また、2019年に新設された「特定技能」という在留資格により、介護や建設など12分野で外国人をフルタイム雇用できる制度が導入され、今後さらにタクシー運転手や駅係員などの分野も追加される予定です 。
日本政府は、外国人労働者の雇用を支援するため、企業に対して補助金や助成金を提供しています。外国人の就労環境を整備するための助成金や、職務に関連した知識・技能を身につけるための助成金などがあり、企業は状況に応じて適切な支援を受けることができます 。
ではなぜ、外国人労働者を採用する企業が増えているのでしょうか。採用するメリットとデメリットと合わせて解説します。
外国人を採用することで得られるメリットには、主に以下の5つがあります。
・人手不足の解消
・企業のグローバル化
・コストの最適化や助成金利用
・インバウンド対応
・新しいアイデアの創出
少子高齢化の影響もあり、国内の労働者人口は減少しています。外国人労働者の採用は企業が抱える労働者不足の問題を解決することにつながるでしょう。
海外進出を視野に入れている企業にとっては、進出予定国出身の外国人を雇用することで、その国の習慣や文化に合わせた戦略立案も行いやすくなるでしょう。
また、語学力に長けている外国人も多く、マルチリンガルな人材を採用することで心強い戦力となってくれます。
介護職、建設、飲食業などの国内で人材が不足している職種では、求職者が集まりにくく、採用期間が長引くことが多いです。外国人を採用することで、この長期化した採用期間を短縮し、結果として採用コストを抑えることができます。
また、外国人の受け入れにより、国や自治体が提供する助成金を利用することができます。これにより、受け入れに関する初期費用を抑えたり、スキルアップのための助成金を活用して、外国人労働者だけでなく、従業員全体のスキルアップを図ることも可能です。
近年、増加する外国人観光客への対応でも活躍が見込まれるでしょう。
特に、飲食店での接客や店舗での商品説明など、外国人観光客とのコミュニケーション機会が多い企業では、外国人を採用することで語学力不足による機会損失を防ぐことができます。
外国人の採用により、組織内で多様な文化的背景や経験を持つ人材が働くことになります。
多様性は創造性やイノベーションを促進し、異なる視点からのアプローチによって問題解決につながるでしょう。
続いてデメリットについて解説します。以下の3つです。
・宗教や文化、言語の壁
・手続きの煩雑さ
・教育コストや現場の負担
宗教や文化の違いは、職場でのコミュニケーションやチームワークに影響を与えることがあります。
例えば、食事制限やプレイヤールームの確保、価値観の違いなどが挙げられます。これらの障壁を克服するには、お互いの文化を理解し尊重する努力が不可欠です。
外国人を採用する際には、ビザの申請や更新などの手続きが複雑で、在留許可が下りるまでに時間がかかることがあります。このため、日本人を採用する場合と比べて企業にとって大きな負担となることが多く、一部の業務を外部に委託するケースが一般的です。
外国人労働者に対する日本語教育や職業訓練には、教育コストや時間がかかります。特に小規模企業にとっては負担が大きく、現場が疲弊することもあります。これを防ぐためには、適切な採用計画を策定することが重要になります。
実際に外国人を採用する際の流れを解説します。各ステップは以下の通りです。
外国人労働者を採用する際、単に「安い労働力を確保するため」という理由だけでは、自社に適した人材を見つけるのは難しいです。また、そのような動機で採用を進めると、労働環境の整備が難しくなり、トラブルを引き起こす可能性があります。
求人を開始する前に、必要なスキル、仕事内容、年齢、雇用期間、予定人数など、詳細な採用計画を立てることが重要です。
求める人材像が決まったら、実際に求人募集を始めます。方法としては、自社サイトや求人サイト、SNSに求人情報を掲載するか、人材紹介会社に依頼する方法があります。
前者は費用が抑えられますが、応募者のスクリーニングを自社で行う必要があります。後者は、外国人労働者の紹介に特化した人材紹介会社に登録するのが良いでしょう。
信頼できる紹介会社は在留資格などに詳しいため、手間を省くことができます。さらに、外国人社員などからの紹介を通じたリファラル採用も有効です。知人がいることで安心感が増し、信頼性の高い人材を確保できます。
外国人が日本で就労するには多くの条件を満たす必要があります。国内在住の外国人の場合、在留カードを確認し、適法に雇用できるかどうかを慎重に確認しましょう。
人材紹介会社を利用する場合でも、信頼性のある紹介会社を選ぶことが重要です。
応募者の資格に問題がなければ、面接などの選考を行います。選考では、日本語能力の高さやスキルのマッチ度を評価します。
また、国によって同じ職種でも仕事内容が異なることがあるため、文化の違いを理解しながら丁寧にヒアリングし、ミスマッチを防ぎましょう。
選考の結果、求める人材が見つかれば、雇用契約を結びます。契約書は特に重要で、漏れがあるとトラブルの原因になります。契約内容を相手に正しく理解してもらうために、母国語で作成しましょう。
海外に在住している外国人を雇用する場合は、在留資格を申請する必要があります。国内在住の場合でも、在留資格の変更が必要になることがあります。
手続きが複雑であるため、外国人本人がしっかりと手続きを進めているか逐一確認しフォローも行いましょう。
必要な手続きが完了したら、実際に日本で働くための準備をします。
住居の確保、銀行口座の開設、ライフラインの契約、航空券の手配、引っ越し準備、事前研修、自治体への届出など、多くの準備が必要です。
企業がこれらの支援を行うと、外国人労働者にとっても安心です。在留資格によっては、企業による事前ガイダンスやオリエンテーションの実施が義務付けられている場合もありますので、それらの条件を確認し、準備を進めましょう。
採用の流れや手続きを理解していただけたかと思います。ここでは、外国人採用を成功させるための4つのポイントについて解説します。
・在留資格について理解する
・適切な給料を提示する
・教育・支援体制を整える
・価値観の違いを理解する
外国人が国内で滞在するためには、在留資格(ビザ)が必要です。在留資格には働けるもの、条件付きで働けるもの、一切働けないものがあります。
もし企業が働ける在留資格を持たない外国人を雇用すると、不法就労となります。例えば、「留学」ビザや「家族滞在」ビザを持つ外国人は、基本的に働けません。
外国人労働者の給与と福利厚生は非常に重要です。たとえ技能実習生であっても、最低賃金を下回ることは違法に当たります。
また、円安の影響で外国人労働者が他国での就労を選ぶこともあり、給与水準の向上が求められます。加えて、住居支援、健康保険、教育支援などの福利厚生も重要です。
外国人労働者のスキル向上には、適切な教育環境が必要です。業務マニュアルを渡すだけでは不十分で、文化や考え方の違いから指示通りに作業が進まないこともあります。
教育担当者が積極的にコミュニケーションを図り、違いを理解できるよう支援することが重要です。上司が定期的に面談を行い、適切なフォローアップを行うことも必要です。
外国人は異なる文化や環境で育っており、異なる価値観を持っています。
価値観の違いがコミュニケーションのすれ違いを引き起こすこともあります。異文化理解と配慮のために、日本人従業員向けの研修を実施することが重要です。
最後に、外国人を積極採用している企業事例を2つご紹介します。
本多機工株式会社では、海外販路の開拓に伴い現地語での対応が必要なため、4つのポイントを意識して採用を行っています。
社長自らが企業戦略として海外進出の必要性を根気よく社員に伝え、外国人が必要だという気運を醸成しています。「本多人」という概念を掲げ、自社の内なるグローバル化を進展させました。
社長自らが様々な採用機会を活用し、自社を積極的にアピールしています。求める能力や人材像を明確に伝えることを重視し、外国人留学生と企業とのマッチングサイトや合同会社説明会、就活フェアなどを活用したそうです。
外国人社員を講師に迎え、英語教室を開催しています。これにより、外国人社員と日本人社員の相互理解が深まり、日本人社員の外国語能力向上や意欲向上にも繋がっています。教室では参加者と講師に残業代が支給され、多くの社員が参加しています。
外国人社員が母国で独立する際、積極的にサポートを行っています。これまでに1名のチュニジア人と2名の中国人が独立し、現地パートナーとして良好な関係を維持しています。適切な雇用管理の下で協働し、良好な関係を築くことが重要です。
このように、本多機工株式会社は外国人採用を通じて、内なるグローバル化を進展させ、日本人社員の意欲向上にも繋がる好循環を構築しています。
カシオ計算機株式会社では、ダイバーシティを推進するために以下の4つのポイントを意識して採用活動を行っています。
特定の業務に対して採用する「職種別採用」を導入しています。これにより、専門性の高い優秀な人材を確保し、入社後のキャリアプランを明示することでミスマッチによる早期離職やモチベーション低下を防止しています。また、キャリアアップ志向の強い外国人に対する大きなPRポイントとなっています。
イスラム教徒のためにお祈り部屋を設置し、祈りの方向を示す矢印も設置しています。また、社員食堂では宗教上の理由で豚肉を避ける人のために、豚肉を使用した料理が分かる工夫も行っています。
ビジネス日本語能力テストの受験料の補助も行っています。これにより、外国人社員がビジネス日本語を学ぶきっかけを作り、日本人社員やお客様との円滑なコミュニケーションを促進しています。
外国人社員の帰郷を促進するため、休暇目的を明確化した「母国帰国休暇」を設定しています。入社3年経過後から3年に1度、特別休暇として外国人社員のみに付与し、帰郷のための長期休暇取得を支援しています。
このように、カシオ計算機株式会社は外国人に対する様々な配慮を行いながら、自社のダイバーシティを推進しています。
参照:「外国人の活用好事例集」厚生労働省
本記事では、外国人労働者の「採用ステップとかかるコスト」「メリット・デメリット」「注意点」などを実際の事例も交えながら解説しました。
外国人採用を適切に行うことで、自社の課題解決への糸口も見えてくるでしょう。ぜひ本記事を参考にして、外国人採用を検討してみてはいかがでしょうか。